人生はエンピツである。　２１世紀のＰインキ（にじゅういっせいきのぴーいんき）

　オイラ一本芯の通った人間になりたい。若い頃はいつも尖がってたけれど、いまでは多少丸くなったって言われるよ。丸くなったっていうのは、物分りが良くなったってことだろうけど、そりゃ多少世の中の仕組みもわかってきたからね。でも世の中の汚いとこを身につけたりしたくないよ。人間疑問を持たなくなったら、オイラおしまいだって思うんだ。
　口下手だから会合なんかじゃシャープな意見を言うインテリさんにかなわない。彼らは常に同じテンションで理路整然と話し続けるのが得意なんだ。でも芯がない。いや、引き出しは多くて、多すぎて、自分の言葉に酔っているんだ。いいことを言うときもあれば、いい加減な取り繕いをするときもある。みんなそんな言葉に翻弄されて、なんとなく納得させられてしまう。でもそれで何が残るって言うんだ。何が始まるって言うんだ。
　そういう人がとっても多くなっている。お互いに知識の補充は完璧だけど、一本通った芯がないように感じるんだ。でも若いうちはそれもありだと思うよ。彼らには共感できる部分もある。彼らの多くは硬直化してないからね。間違ったこと、取り繕った部分をお互い指摘しあえば、消しゴムで消すように書き直せる柔軟性を持ってるんだ。
　でも偉くなって権力を持ったりすると、とたんに硬直化する大人はたくさんいる。一度言ったことを訂正できない、無謬性に命を賭けてるやつら。思いつきの検証なんてないんだ。まるで油性マジックだな。脂ぎった頭で考えたことや言いたいことを言うだけ言って絶対に間違いを認めないやつら。腹の底まで真っ黒いやつら。いろんなタイプがいるよ。でもオイラ、そんなやつらを見て、ああはなりたくないって自分自身を見つめなおすことにしてる。反面教師として彼らを見ていようと努めてるんだ。
　口下手なオイラだけど、オイラの武器は間違いを認める柔軟な思考を持っていることと、文章を書く意志を持ってるってこと。明文化することで思考を整理できるし、間違いがあれば認めて訂正すればいい。最初から無謬性にこだわって、権威の保全だけを考えて後手後手に回って、結局破綻を起こしてる企業が多いよね。太いマジックで書くのは最後の最後、究極を言えば遺言だけマジックなり筆なりで書ければいい。そんな生き方が理想だな。エンピツで書き続ける姿勢を持ちたいね。
　最近は消せるインキが出たんだってね。そういう大人になりたいね。そんな知識人に出てきて欲しい。確固とした色を持ってても、消せる勇気があるってかっこいいよ。結婚するならお互い違う色を持ってて、間違ったらちゃんと消してくれるパートナーが理想だな。オイラもそうなりたい。でも今は半分削ったエンピツだよ。身を削って働いて働いて、短くなったら補助軸に助けてもらいながら働いて、エンピツのまま生涯をまっとうできたら幸せだね。いつでも消せるけど消されない価値を残したいね。◆