茅ヶ崎の異邦人　たじりわたる（たじりわたる）

　社会人になって八年。幸か不幸か同じ会社に勤め、住処こそワンルームから分譲マンションに変わったが、毎日同じ駅から通勤している。何事もなければ、このままこの生活が続く。

　入社してすぐの頃、茅ヶ崎を訪れた。つい先日まで住んでいた土地だ。だが茅ヶ崎の変わらない景色はそのままに俺を異邦人にした。学生時代四年間住んでいたのに、この懐かしさは何だ。

　過去を探し歩くように、後輩のアパートに泊まり、茅ヶ崎の女の子に電話をし、なじみだった店に飲みに行く。つかの間のやすらぎがある。だが旅人のやすらぎだ。俺の居場所がなくなってしまった茅ヶ崎。この疎外感はどこから来るのだろう。茅ヶ崎は俺に冷たかった。

　住むことは日常をその環境に委ねることだ。旅人では生きられない。それを発見した気分だった。茅ヶ崎は仮の住まいだったが、それでも居場所を持つことが、自分にとっては大切なことだとそのときはじめて感じた。

　子どもの頃は旅人に憧れていた。それも所詮、家族に守られた居場所あってこその憧れだったことに気付きハッとした。俺は真の旅人にはなれないのだと悩んでいた。

　そんな思いのまま数日が経ち、札幌、静岡、名古屋、広島へ行く同期入社四人を送る会があった。新宿ルポゼＰＡＲＴ�Uという店を貸し切り、同期二十七人だけの激励会だった。

　内定式でも会っているが、ほとんど記憶になく、四月一日の入社式で出会ったばかりと言っていい。それから十数日しか経っていないのに、大親友と離ればなれになってしまうような気持ちを、みんな多かれ少なかれ持っていたに違いない。

　同期入社という事実だけで、これほど重いものか。この前まで学生だった彼らが、単身知らない土地で仕事につくことの重さが、冗談の端々にのぞく。居場所のない土地の違和感、浮遊感、孤独感、焦燥感、疎外感。それらを克服しながら生活して行かねばならない。